熱力学におけるエントロピー

2つの熱源を持つカルノーサイクルでは、

\displaystyle\frac{Q_H}{T_H}+\frac{Q_L}{T_L}=0     (8-14)

でした。ここで

\displaystyle\frac{Q}{T}     (9-1)

という量を考えます。すると、カルノーサイクルを1周する経路に沿ってQ/Tを足したものはゼロになる、ということが言えます。つまり、
1.気体を高熱源に接触させて、高熱源の温度を保ったまま、準静的に気体を膨張させる。(体積に反比例して圧力が減少する。)

この時、\displaystyle\frac{Q_H}{T_H}


2.高熱源を離して、断熱の状況で、低熱源の温度になるまで準静的に気体を膨張させる。
この時、温度は変化するが熱量Qの出入りはないので、1と2での(9-1)の合計値は

\displaystyle\frac{Q_H}{T_H}+0


3.気体を低熱源に接触させて、低熱源の温度に保ったまま、準静的に気体を圧縮する。(体積に反比例して圧力が増加する。)
1から3までの(9-1)の合計値は

\displaystyle\frac{Q_H}{T_H}+0+\frac{Q_L}{T_L}


4.低熱源を離して、断熱の状況で、高熱源の温度になるまで準静的に体積を圧縮する。
1から4までの(9-1)の合計値は

\displaystyle\frac{Q_H}{T_H}+0+\frac{Q_L}{T_L}+0

となりますが、式(8-14)よりこの合計値はゼロになります。


さて、微小なカルノーサイクルを複数組み合わせることで、気体の状態が元に戻るような任意の準静的な閉じた経路を近似することが出来ます。細かい説明は省きますが、カルノーサイクルにおける式(8-14)を組み合わせることにより、この閉じた経路を一周する周回積分

\displaystyle\oint\frac{dQ}{T}=0     (9-2)

が成り立ちます。


次に、気体のある状態(A)から別の状態(B)に到達するような準静的な経路を2つ考えます。片方の経路をAB1、もう片方の経路をAB2と名付けます。経路AB1に沿ってのAからBまでのdQ/T積分

\displaystyle\int_{A(AB1)}^B\frac{dQ}{T}

経路AB2に沿ってのAからBまでのdQ/T積分

\displaystyle\int_{A(AB2)}^B\frac{dQ}{T}

と表すことにします。また、経路AB2を逆にBからAに向かってたどった場合の経路をBA2で表し、経路BA2に沿っての積分

\displaystyle\int_{B(BA2)}^A\frac{dQ}{T}

で表すことにします。積分の定義から

\displaystyle\int_{B(BA2)}^A\frac{dQ}{T}=-\int_{A(AB2)}^B\frac{dQ}{T}   (9-3)

が成り立ちます。一方、経路AB1でBまでたどり、次にBA2でAまで戻ってくる経路は閉じた経路になるので、式(9-2)から

\displaystyle\int_{A(AB1)}^B\frac{dQ}{T}+\int_{B(BA2)}^A\frac{dQ}{T}=\oint\frac{dQ}{T}=0

よって

\displaystyle\int_{A(AB1)}^B\frac{dQ}{T}=-\int_{B(BA2)}^A\frac{dQ}{T}   (9-4)

となります。この式と式(9-3)から

\displaystyle\int_{A(AB1)}^B\frac{dQ}{T}=\int_{A(AB2)}^B\frac{dQ}{T}   (9-5)

つまり、

\displaystyle\int_A^B\frac{dQ}{T}     (9-6)

の値は、途中の経路に依存しないことが分かります。


このことから、式(9-6)で与えられる量が状態量(経路に依存せずに状態にのみ依存する量)であることが分かります。例えば状態Aの時のその量の値をゼロとすれば、つまり、状態Aを基準とすれば、式(9-6)によって、さまざまな状態における、この量が定義出来ます。
この量を学者たちはエントロピーと名付けたのでした。


よって、エトロピーSは、

\displaystyle{S}=\int\frac{dQ}{T}     (9-7)

で定義されます。