理想気体のエネルギーと温度の関係

理想気体の微視的状態の数を計算する前に、理想気体の圧力、体積、温度とエネルギーの関係を求めておきます。


まず、理想気体の状態方程式

pV=nRT     (8-13)

から始めます。ここにp理想気体の圧力、Vは体積、nはモル数、R気体定数Tは温度です。モル数というのは粒子の数を表す量で、1モルがアボガドロ数N_Aで、その値は約6.02\times10^{23}個でした。よって理想気体の粒子の数N

N=nN_A     (11-1)

と書けます。これを使って式(8-13)を変形すると、

pV=N\displaystyle\frac{R}{N_A}T     (11-2)

となります。ここで気体定数Rアボガドロ数N_Aも定数なので、R/N_Aも定数になります。実はこれが統計力学の基礎になるボルツマン定数kです。

k=\displaystyle\frac{R}{N_A}     (11-3)

この式を用いると式(11-2)は以下の形に変形されます。

pV=NkT     (11-4)


今度は理想気体の粒子の運動によって圧力の発生を説明してみましょう。理想気体x軸に垂直な2つの平面とy軸に垂直な2つの平面とz軸に垂直な2つの平面からなる直方体の容器の中に入っているとします。x軸に垂直な平面で、x座標の大きいほうが容器の外、小さいほうが容器の中になっている平面を取り上げ、この平面にかかる圧力を考えます。

この平面の微小な面積dSを考えます。短い時間dtの間にぶつかる粒子の数を考えます。粒子の速度のx成分をv_xとします。v_x>0の粒子しかこの平面にぶつかりません。速度のx成分v_xを持ち、dtの間に面積dSにぶつかる粒子は体積dV=v_xdtdSの中にいると考えることが出来ます。

  • ここで、v_xの値が同じでもv_yv_zの値が異なる粒子についても一緒に考えてよいのか、少し疑問になります。v_yv_zの値が異なれば、上図に示す斜め円柱の形が異なってくるので、容器中の同じ場所を示すことにはならないからです。しかし、v_yv_zの値が異なっていても斜め円柱の体積はv_xdtdSで同じなため、また、容器の中に粒子は均等に存在していると考えられるため、結局は1つの斜め円柱の体積で代表させて考えればよいことが分かります。

全体でN個の粒子があります。その中で速度のx成分がv_xv_x+dv_xの間にある粒子の数をf(v_x)dv_xNで表すことにします。f(v_x)の関数の形はあとで考察します。

dVの中にある粒子の数は、あらゆる速度の粒子がどこにも均等に存在すると考えられるので、

N\displaystyle\frac{dV}{V}

個であると考えられます。さらに、dVの中にいる、速度のx成分がv_xv_x+dv_xの間にある粒子の個数は

f(v_x)dv_xN\displaystyle\frac{dV}{V}

個になります。dV=v_xdtdSだったので、これは以下のように書き換えることが出来ます。

f(v_x)dv_xN{\displaystyle}\frac{v_x}{V}dtdS     (11-5)

1回の衝突での粒子の運動量の変化は2mv_xです。それが面積dSに時間dtの間に式(11-5)の個数だけ衝突するわけです。単位時間あたりの運動量の変化が力になりますので、面積dSにかかる力F

F=\displaystyle\int_0^{\infty}2mv_xf(v_x)v_x\frac{N}{V}dSdv_x     (11-6)

になります。定積分の下端が0なのは、v_x>0の粒子しか壁にぶつからないからです。単位面積当たりの力が圧力pなので、p

p=\displaystyle\int_0^{\infty}2mv_xf(v_x)v_x\frac{N}{V}dv_x

v_xに依存しない変数を積分の外に出して

p=2m\displaystyle\frac{N}{V}\int_0^{\infty}v_x^2f(v_x)dv_x     (11-7)

となります。この先を計算するためにはf(v_x)の形を決めなければなりません。ここで、粒子の速度の分布は速度ベクトルの絶対値vのみに依存し、速度ベクトルの方向には依存しないと仮定します。粒子がランダムに運動すると考えれば、この仮定は妥当でしょう。すると、分布の形に関わらず、この仮定を満たしてさえいれば、

p=\displaystyle{m}\overline{v^2}\frac{N}{3V}     (11-8)

となることを示すことが出来ます。ここで\overline{v^2}v^2の平均値を表します。式(11-8)の導出過程は別途示します。


ここから

\displaystyle{p}V=\frac{m\overline{v^2}N}{3}     (11-9)

この式と式(11-4)から

\displaystyle\frac{m\overline{v^2}N}{3}=NkT

となり

T=\displaystyle\frac{m\overline{v^2}}{3k}     (11-10)

となります。ところで粒子1個のエネルギーは運動エネルギーだけです。粒子1個の運動エネルギーの平均値E_{ind}

E_{ind}=\displaystyle\overline{\frac{1}{2}mv^2}=\frac{1}{2}m\overline{v^2}     (11-11)

なので、結局

T=\displaystyle\frac{2}{3k}E_{ind}     (11-12)

となります。つまり、温度は粒子1個の平均エネルギーの定数倍でした。

次に、系全体のエネルギーEは、粒子1個の平均エネルギーE_{ind}に粒子数Nを掛けたものですから式(11-12)は

T=\displaystyle\frac{2E}{3Nk}     (11-13)

とも書けます。また、この式を変形して

E=\displaystyle\frac{3}{2}NkT     (11-14)

と書くことも出来ます。また、式(11-4)を考慮すれば

E=\displaystyle\frac{3}{2}pV     (11-15)

と書くことも出来ます。