理想気体の微視的状態の数(1)

個の粒子からなる、体積の理想気体を考えます。この理想気体は孤立していて、外部とのエネルギーのやり取りはないものとします。すると、この理想気体の全エネルギーは一定になります。また、この理想気体を構成する粒子1個の質量をとします。そうすると全…

理想気体のエネルギーと温度の関係

理想気体の微視的状態の数を計算する前に、理想気体の圧力、体積、温度とエネルギーの関係を求めておきます。 まず、理想気体の状態方程式 (8-13)から始めます。ここには理想気体の圧力、は体積、はモル数、は気体定数、は温度です。モル数というのは粒子の…

位相空間(Γ空間)

統計力学においてエントロピーは、微視的状態の数の対数、と定義されます。 と言われてもすぐには納得出来ません。どうしてそう言えるのかについて私は、理想気体の場合の理由付けしか見つけることが出来ませんでした。もっと一般の場合でも、エントロピーを…

エントロピーの性質

次は、統計力学においてエントロピーがどう定義されるかについて述べることになります。 しかしその前に、統計力学で定義したエントロピーが熱力学で定義したエントロピーに一致することを示す際に使う、エントロピーに関わる式を2つ押さえておきます。それ…

熱力学におけるエントロピー

2つの熱源を持つカルノーサイクルでは、 (8-14)でした。ここで (9-1)という量を考えます。すると、カルノーサイクルを1周する経路に沿ってを足したものはゼロになる、ということが言えます。つまり、 1.気体を高熱源に接触させて、高熱源の温度を保った…

カルノーサイクル(2)

次に以下を証明します。(3) は、と書ける。ここには温度の関数ですが、まだこの関数の形については何もいえません。 この証明ですが、高低の2つの熱源のほかに低より低い極低の熱源を考えます。高熱源の温度を、低熱源の温度を、極低熱源の温度をで表すこと…

カルノーサイクル(1)

さて、前回の「Fが自由エネルギーと呼ばれる理由」の中で (7-2)で定義されたをエントロピーと見なす、というふうに説明しました。 しかし私自身、これがなぜエントロピーであると言えるのかについて、前回の時点では説明出来なかったので、しばらく熱力学と…

Fが自由エネルギーと呼ばれる理由

「自由エネルギー原理の式の導出」の最後で並べた疑問点のうち 1) なぜは自由エネルギーと呼ばれるのか? について、私が理解した内容を書いていきます。 Fは (1-1)で定義されました。これを変形すると、 (7-1)となります。ここで、 (7-2)と置くと、はエント…

Fの積分が脳に計算可能な理由

次に「自由エネルギー原理の式の導出」の最後で並べた疑問点のうち 2) 先に (2-2) を計算することは脳にとって困難としておきながら、なぜ、 (1-1) を計算することは脳にとって可能としているのか? どちらも同じによる積分なので困難さは同等ではないのか?…

多次元の場合のカルバック・ライブラー距離

ここでは前回「自由エネルギー原理の式の導出」の最後で並べた疑問点のうち 3) がベクトルの場合でもカルバック・ライブラー距離は式(3-1)で大丈夫なのか? を解決しようと思います。なお式(3-1)は (3-1)でした。 このエントリーでは変数がベクトルであるこ…

自由エネルギー原理の式の導出

さて、話を「q(x)について」に戻します。 そこでの議論では、脳の認識はに近づくように変化するのでした。このことをカルバック・ライブラー距離を使って書くと、 (5-1)を最小化する、ということになります。式(5-1)には、どうやってを最小化するのか、とい…

イェンゼンの不等式

前回使ったイェンゼンの不等式 が上に凸な関数であり、からまでの範囲で積分可能な任意の関数と (3-5)かつを満たす任意の関数p(x)があるとき (3-6)が成り立つ。また、式(3-6)で等号が成り立つのは、の場合のみである。 の証明を示します。 任意の実数値を考…

カルバック・ライブラー距離

カルバック・ライブラー距離は2つの確率分布の差異を示す尺度です。2つの確率分布が一致する場合のみカルバック・ライブラー距離はゼロになり、それ以外の場合は正の値になります。カルバック・ライブラー距離の定義を次に示します。変数についての2つの…

q(x)について

は前回述べたようにとの同時確率で (1-2)で計算されます。はを固定した時の感覚の確率分布であり、いわば原因となる状態と発生する感覚の間の(確率的な)因果関係を表しています。を観測モデルと呼びます。 一方、脳はこの逆の関係を持っていないとしていま…

変分自由エネルギーに登場する変数について

熱力学や統計力学の自由エネルギーではなくて、今度は、脳科学のフリストンの自由エネルギー原理における変分自由エネルギーの式を検討していきます。変分自由エネルギーの式は下のようなものです。 (1-1)この式にはとかのように、熱力学では見慣れない記号…

ヘルムホルツの自由エネルギー(2)

ヘルムホルツの自由エネルギーがなぜ「自由」エネルギーと呼ばれるのかについて押さえておきます。 前回、系は等温等積という条件をつけていましたが、今回は等積という条件を外します。すると、前回の式(6) (6)でにはなりません。そこで、式(6)を変形して、…

ヘルムホルツの自由エネルギー

まずは、「自由エネルギー原理」の名前の元になったヘルムホルツの自由エネルギーが何だったか、調べてみました。 実は40年以上前、私は物理学科の学生でしたが、その頃、熱力学がよく分からなかった記憶があります。それで今でも不得意感があるのですが・・…

自由エネルギー原理に対する私の今の認識

自由エネルギー原理とはイギリスの脳科学者カール・フリストンが2006年から提唱している、脳科学における原理です。 私が自由エネルギー原理というものの存在を知ったのは、去年の5月で、乾 敏郎、阪口 豊 著の「自由エネルギー原理入門: 知覚・行動・コミ…